17 十全大補湯

十全大補湯は、その名の通り、10種類の生薬が組み合わさってできた処方です。中国宋時代に 編纂された『太平恵民和剤局方』諸病門に収載されています。漢方薬の四物湯と四君子湯に生 薬の黄耆と桂皮を加えたもので、「気血の虚を補い十全（完全）の効がある」という意味があり ます。大病後、術後、産後や慢性疾患などで衰弱した人の回復促進によく使われる薬です。最 近では、がん治療の現場で、放射線治療や抗がん剤の副作用の軽減、患者さんのQOL向上など、 補助療法としても使われています。 十全大補湯 とは 投与時の注意 甘草を含むので、偽アルドステロン症、ミオパシーの発現に注意する。 カンゾウ含有製剤、グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤との併用注意。 肝機能障害、黄疸が現れることがあるので十分注意し、異常が認められた場合は投与を中止、 適切な処置を行うこと。 類似処方の 使い分け 使用目標 （証） 病後、術後、慢性疾患などで、体力、気力ともに衰弱している場合に用いる。腹壁は全体に軟 弱で、しばしば腹部大動脈の拍動を触れる。脈は弱いことが多い。一般に、疲労倦怠感が著し く、顔色不良、皮膚の乾燥、ねあせ、口腔内乾燥、貧血、微熱などの症状を訴える。　 【脈証】沈細あるいは微弱 基礎・臨床・ EBM ・術後患者の栄養状態・免疫能低下を改善し、体力増強効果が期待できる。 ・白血球、血小板数の低下、貧血状態を改善し、造血幹細胞数低下抑制作用による骨髄機能の 　改善が期待できる。 ・免疫機能低下の改善が期待できる。 ・食欲不振、疲労倦怠などQOLの向上が期待できる。 参考文献：１）「漢方製剤　活用の手引き」（臨床情報センター）、２）　「呼吸器疾患漢方治療のてびき」（協和企画）、 　　　　　「ファーストチョイスの漢方薬」（南山堂）、「漢方診療のレッスン」（金原出版）、ほか 使用目標は似ているが、貧血、皮膚乾燥はなく、肋骨弓下部の抵抗・圧痛を軽 度に認める場合によい。 使用目標は似ているが、疲労倦怠感はそれほど顕著ではなく、下痢、四肢冷感、 めまい、身体動揺感などを訴える場合によい。 体質虚弱傾向や易疲労、血色不良などは似ているが、とくに小児で腹直筋の緊 張、腹痛、鼻出血などを伴う場合によい。 体質虚弱で、食欲不振、疲労倦怠感などがあり、心窩部の膨満感、振水音を認 める場合によい。 ・補中益気湯 ・真武湯 ・小建中湯 ・六君子湯 【虚　実】 効能又は効果 病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血 （上記はツムラ医療用漢方製剤による） 各種疾患・術後の体力低下、食欲不振、貧血の補助療法、低血圧症、四肢冷感、がん化学療法・ 放射線療法時の副作用軽減、胃腸虚弱、上部消化管機能異常（胃下垂）、ねあせ、神経衰弱、白 血病の補助療法、痔瘻、脱肛、慢性化膿性皮膚疾患、膠原病、アトピー性皮膚炎、褥瘡、口内 炎、陰部潰瘍 じゅう　ぜん　 たい ほ とう 監修：佐藤 弘・木村 容子（東京女子医科大学東洋医学研究所） 応用疾患・ 症状　※１） ● 虚弱 ● 貧血 ● 全身倦怠感 ● 食欲不振 17 文献：今野弘之：Therapeutic Research.19,711(1998)　藤原道久・他：産婦中四会誌,47,153(1999)　 　　　相良祐輔・他：日本東洋医学雑誌,50,795(2000)　ほか 十全大補湯十全大補湯 虚実 やや実 中間 やや虚 黄耆、桂皮、地黄、 薬、川 、蒼朮、当帰、人参、 茯苓、甘草 腹証腹証 腹力弱 山田光胤1） ? ? ? ? ? ? ? 口腔内乾燥 手足の冷え 顔色不良 皮膚乾燥